長崎医専教授石田昇と精神病学

医者も人の子．やはり患者になるのである．この本は，長崎大学医学部精神神経科（当時は長崎医学専門学校精神病学）の初代教授である石田昇の数奇な運命を教室の歴史と絡めて詳述したもの．石田については元東大教授でかつて石田の主治医でもあった秋元波留夫の『迷彩の道標』にもあるが，こちらは旧い写真や雑誌などからの引用もあり，内容も詳しく資料としても貴重．精神医学者としてみると第2代教授の斉藤茂吉さえ歌人として以外はかすんでみえてしまう．石田の書いた『新撰精神病学』の緒言の「精神病は社會の凡ての階級を通じて發現する所の深刻なる事實なり。如何なる天才、人傑といへども一度本病の蹂躙に遭はゞ性格の光、暗雲の底に埋れ、昏々として迷妄なる一肉塊となり了らざるもの罕ならむ、狂して存せんよりは寧ろ死するの勝れるを思ふ者ある、洵に憐むべきなり（Wikipediaより引用）」は，読む者の襟を正してくれよう．彼が精神科医でなかったら，その発病が精神科領域でなかったら，犯罪にかかわることがなかったら・・・と考えずにはいられない．