ツンドラ・サバイバル

著者は南ア・聖沢で滑落、頭部裂傷・肋骨の複雑骨折の重傷を負うが、小屋への救助依頼、ヘリコプターでの救助、さらには救急車を呼ぶといった選択をせずに、同行のカメラマンの助けで下山する。著書全体からみるとたいへん短い部分だが、自身の言葉で語られるだけに緊張感が伝わってくる。自分の信条と自分の命を冷静に天秤にかけるあたりは、動物的な感覚と言える。並の神経ではない。サバイバル登山は、いわばアウトローの世界というのが良くわかる。後半は本のタイトルとなっているツンドラサバイバルである。テレビ放映目的で計画されたため、多くのスタッフが同行することとなった。途中、原住民ハンターに出合い一緒に行動することになるのだが、仕組まれていたのではなく全く偶然だったようだ。一方、ロシア人プランナーたち、テレビ局カメラマンとディレクター、そしてサバイバル登山家と原住民ハンター、この3組の行動や思惑の絡み合いは、一つのドラマと言ってよいほど面白い。特に、食に対する感覚の違いが鮮明であった。著者は、この旅で単独行動のサバイバル登山家から、新しい次元の冒険家に変身した。彼と原住民ハンターとの言葉を越えた交流が面白かった。