勝ち将棋鬼のごとし―プロ将棋の勝負師たち (リキトミブックス (4))

私は将棋自体は全くのヘボ（と言うよりも、素人そのもので実力は覚えたての小学生程度）なのですが、古くから新聞紙上の観戦記がとても好きでした。それは、技術的な知識のない私にも、対局中の棋士たちの心理や人間性を興味深く覗くことができるからです。中でも、現役棋士としての専門的な解説を意識的に控え、盤上・盤外を問わず、棋士たちの魅力的な人となりを紹介することの方に比重を置いた氏の著書は、私のようなものにとっては非常に興味深くかつ読みやすいものです。「一局の将棋一回の人生」で初めて氏の作品に触れて以来、常に感じ続けているは氏の将棋に対する深い愛情と、それをベースとする鋭敏な観察力と的確な表現力、そして何よりも氏自身の飾らない人柄です。自らその世界に身を置きながら、ライバルでもある同士たちの姿を、これほどまで率直に飾らず語ることができる（そして、それが許される）のは、氏を置いてなく、決して強豪とは言えない氏の将棋界に果たした役割は計り知れないと言ってよいでしょう。元気だと思っていただけに、傘寿を前にした逝去は本当に残念です。本書は、現役バリバリの時代の比較的初期の作品ながら、当時の勢力図やエピソードが、やはり（晩年には老師と慕われた）氏の人徳溢れる安定感のある文体で綴られており、安心して面白く読み進めることができます。まあ、河口ファンにとっては、どの作品を選んでもどれも間違いはなのでいすが・・・。黙祷。