スピリチュアルおかん 伝説のゲーム「エルシャダイ」開発者と家族の神秘体験

いかにもＰＨＰといった便乗風タイトルだが、客観的にスピリチュアルを捉えた内容でシリアス／コミカルの舵取りが巧く一気に読めた。描き手が占い師等ではないためその方面への勧誘意図がなく、大まかな理屈と全体像を学べる程度に留めてあるのは良心的。占術や鑑定士への道筋は一情報として紹介されている。造詣の深い人ほど共感できそうな、悪く言えば一般人はホンマかいなと思うような数奇なエピソードも盛り沢山で、オカルト要素目当てでも楽しめるのでは。本質は「占いの枠を超えた人類普遍のテーマ『生きることとは何か』」 の誠実な追求だと読み取れた。手段こそ違えど同じものを追っているおかんとメガネ親子の姿が微笑ましい。そこにゲーム『エルシャダイ』開発当時の、ネットで騒いでいた人々からは見えていなかった制作秘話が織り込まれる。本書のシュールな笑いと何かが心に残るような読後感は、話題になったゲームトレイラーを始めとする個性的な過去作品に通じるものがある。占い好き、ゲーム好き、家族と自分の人生を見つめ直してみたい人など様々な読者層を想定した構成の裏に、作者から家族、ファン、関係者への感謝の本という向きも窺えた。占い解説画の繊細かつ大胆な描き込みは魅入られんばかりの迫力で、エンタメに携わる著者特有の世界観が本領発揮されており一見の価値有り。所謂ヘタウマ絵も多いのだが、記号化に陥らず人間の自然な仕草が描けていたりと不思議な説得力を持っている。先レビューの「全ページの1/3は見開き」は誤情報で、見開きの大半は演出意図が伝わるが、スクリーントーンやコマ数が少ない作風なので一般単行本サイズでも良かったかもしれない。エルシャダイのファンサービスとして、過去に発表されたカラー絵の線画のイーノック・ルシフェル（既出絵と視線が違う）・イシュタール・堕天使数名・ガブリエル・エゼキV。新規絵でネフィリム・ノクトがゲスト出演。余談ながら「スピリチュアル」はキリスト教用語だそうで、例の携帯電話を使う神の意思を感じずにはいられない。題名と表紙で損をしているのと（「スピリチュアル」という単語が読者を選ぶ、著者の特長である色彩感覚が活かされておらず残念、おかんは作中の方が可愛い）、治療体験談にもう一歩配慮が欲しかったので★４と悩んだ末、総合評価が低過ぎると感じてやや甘めに採点した。読み手の年齢によって受け取り方が変わる類の本だと確信し、特に学生の方には社会人になってからの再読をお勧めしたい。