科学する心 (集英社インターナショナル)

朝日に書評が載っていた。べた褒めというほどではなく、彼の科学随想は、時折読んでいるからどうしようかなと、ネットで検索して、「サピエンス全史」についての1篇があるのを見つけた。それなら読んでみようかと手に取った次第。第一章 ウミウシの失敗第二章 日時計と冪とプランク時代第三章 無限と永遠第四章 進化と絶滅と哀惜第五章 原子力、あるいは事象の一回性第六章 体験の物理、日常の科学第七章 知力による制覇の得失『サピエンス全史』を巡って第八章 『昆虫記』と科学の文学性第九章 「考える」と「思う」の違い 三本のSF映画によるAI論第十章 主観の反逆 あるいは我が作品の中の反科学第十一章 パタゴニア紀行第十二章 光の世界の動物たち 桑島からカンブリアへあとがきという目次。随筆としてよくできている。今回、彼が、物理学科に籍を置いていたことを知った。なるほどね、世の中の文系理系二分論はまったく気に入らないのだが、ある種の反例がここにもあるというところ。それぞれの内容は、実際にページをめくるのが良い。意外な発見もあるはずなので、あえて、ここで述べるつもりはない。ただし、第7章については若干コメントしておく。ハラリの「ホモ・デウス」についての書評がないのが残念だが、さすがと感じる。興味深いのは、池澤がハラリは楽観的だが、自分は楽観的には慣れないと述べているところ。別の章で、AIについても論じているのだが、集団としての人間の意志の表れ方には、ランダムな要素が多い。いつまで、まっとうな判断をまっとうに下して、まっとうな生活を続けていくことができるか。全般的には、そう悲観的だと思えないだけに、この章での「悲観的」は大いに気になる。